理事長ご挨拶      

2016年8月

ご挨拶

理事長 阪田 雅裕

 早いもので、昨年、この『協会だより』でごあいさつを申し上げてから1年が経ちました。この間、当協会は、静岡市での全国盲ろう者大会の開催をはじめ、諸般の事業を滞りなく実施することができました。ひとえに、賛助会員の皆様や盲ろう者の通訳・介助にあたってくださっている皆様など、関係者の方々のご尽力のたまものであり、改めて厚く御礼申し上げます。
 当協会は、平成3年の設立当初から厚生労働省やその外郭団体の福祉医療機構から委託された事業を中心に活動を行ってまいりました。はじめは、協会設立の大きな目的でもあった盲ろう者への通訳・介助者の派遣事業が中心でしたが、これが都道府県等によって実施されるようになった現在では、全国で通訳・介助者の養成に当たる指導者の育成、盲ろう者によるパソコン利用の指導や宿泊型の自立訓練など、高度に専門性を必要とする事業が主体となっています。盲ろう者の生活相談や機関誌『コミュニカ』の発行など、当初から続けている事業も含めて協会の事業の大半が国によって支えられているという状況には変化がありません。各地の通訳・介助者派遣も同様に公的な資金によって賄われています。
 協会の予算規模はこの25年間、ほとんど変わらないのですが、今年、平成28年度の国の障がい者福祉関係の予算を10年前の平成18年度のそれと比べると、8千億円余りから1兆8千億円余へと2倍以上になっています。もちろん障がい者福祉に充てられる予算の拡充は歓迎するべきことですが、手放しで喜べるものでもありません。人口の高齢化に伴い、わが国では障がい者の数も年々増加していますが、この増加に対応してこれからも継続して安定的予算が確保されるかどうか疑問がないわけではないからです。このことがより深刻で切実なのは、他の社会保障分野です。年金・医療・介護等の社会保障給付の増加に社会保険料の増加が追い付かず、公費による負担は毎年1兆円規模で増え続けています。ご承知のとおり日本の人口は数年前から減少に転じていますが、高齢者はこれからも増え続けます。わが国の財政は、今でも歳入の3分の1以上を公債金収入に頼っていて、国・地方を合わせた長期債務残高は優に1千兆円を超えています。これはわが国のGDPの2倍を超え、欧米主要国はもとより財政が破たんしたギリシャをさえ上回る水準です。
 障がい者や高齢者など、すべての国民が等しく安心して暮らせる社会を目指すことに異を唱える人は少ないはずです。他方、こうした安心・安全を確保するには費用がかかりますが、いざその費用の負担となると、途端に異論が続出するのが現実です。その結果もたらされたのが、膨大な財政赤字であり、将来世代へのいわばツケの先送りです。高福祉の国家を志向する北欧諸国を筆頭にヨーロッパ諸国の国民負担率、すなわちGDPに占める租税と社会保険料の割合は、日本よりもはるかに高く、ほとんどの国の消費税率が20%以上です。これに対してアメリカは、日本よりもさらに国民負担の軽い国です。低い負担と優勝劣敗の激しい競争が国の活力の源でもあるのでしょうが、オバマ大統領が公的な医療保険制度の導入を唱えたことからも分かるように、欧州や日本に比べて社会保障制度が十分に整備されず、格差の大きい社会となっています。
 北欧型とアメリカ型のどちらを選ぶかは国民の判断ですが、盲ろう者を含めて圧倒的多数の障がい者が、前者を支持することは間違いないでしょう。そうだとすると、高い福祉水準の実現のために、自分たち自身が進んで可能な負担を引き受けるだけではなく、すべての国民にその必要性を理解し、高い負担を厭わない姿勢を持ってもらえるように努めることが必要なのです。消費税の10%への増税が再度延期されました。個々人の当面の税負担は少なくて済みます。しかし、これは障がい者が期待する国づくりをより難しくするものであることを忘れてはならないのです。高齢者ら他の弱者には冷たいけれども障がい者にだけは優しい国などはあり得ないのですから。
 アメリカは、国民負担が少なく、格差の大きい社会ですが、富裕層の寄付によって芸術・文化活動や社会福祉事業が支えられているのも大きな特徴です。対GDP比でみると、日本の寄付総額は未だアメリカの20分の1程度でしかありませんが、年々寄付への関心は高まっていて、大震災時などには多くの寄付が集まるようにもなってきました。当協会の寄付金収入は、私どもの力不足のせいで、この25年間、一進一退を繰り返していますが、昨年は、地方在住の篤志の方から多額のご寄付を頂戴しました。ごく普通の市民の方で、テレビでたまたま盲ろう者のことを見たのがきっかけだとお聞きしました。この方のように温かい気持ちをお持ちの方は少なくないと思います。こうした方々に、日本にも、盲とろうという大きなハンデと戦っている人がたくさんいること、そして当協会と全国各地の友の会とがかれらが生きる上での大きな支えになっていることを知っていただくことが、これまで以上に重要になっていると思います。盲ろう者の皆様にはメディアの取材にも積極的に応じるなど、これからも自らの存在を広く世にアピールしていっていただくことを期待しています。
 先般、NHK(BS放送)で当協会も制作に協力した「奇跡の人」が放映されました。言語の存在を知らなかった学齢期の女児海ちゃんが型破りなサリバン先生、一拓君の熱意によって触手話によるコミュニケーションができるようになるというドラマです。盲ろう児にはコミュニケーション手段をはじめとする小児期の教育が極めて重要です。その教育手法の開発も協会の大きな目的の一つであり、それなりの研究も重ねてまいりました。ドラマでは、海ちゃんがコミュニケーションできるようになるまでに2年以上かかっているのですが、当協会に相談をしてもらえれば、おそらくは数ヶ月で済んだことでしょう。それは大きな成果ですが、他方で協会は、今、一拓君に相談に来られても、その場で直ぐにアドバイスをしたり、一拓君と海ちゃんのところに出向いて直接指導をしたりすることができるスタッフを自ら擁しているわけではありません。もしこうした体制を整えることができれば、この数ヶ月をさらに短縮することが可能になります。現在の協会の財政基盤に照らすと夢物語ですが、日本版ヘレンケラーセンターの設置に向けての課題の一つであると考えています。

(協会だより第27号より抜粋)