理事長ご挨拶      

2015年8月

ご挨拶

理事長 阪田 雅裕

 早いもので、神戸での全国大会から1年が過ぎました。皆様がこの『協会だより』を手にされる頃には、静岡での全国大会が盛大に開かれていることと思います。静岡での大会は、2011年に予定されていたにもかかわらず、同年3月の東日本大震災の発生を受けて中止されたという経緯があります。当協会の20余年の歴史の中で、開催が見送られたのはこの2011年だけですから、その静岡での改めての開催は感慨深いものがありますが、史上最多の盲ろう者の参加が見込まれているのは、嬉しい限りです。
 おかげさまで、当協会は昨年度も1年間、ほぼ滞りなく予定した事業を遂行することができました。これもひとえに盲ろう者の通訳介助に当たられる方々の熱意と、賛助会員その他協会に資金面でのご支援をくださった皆様の善意、そして山下事務局長をはじめ協会の職員の方々のご尽力の賜物であり、改めて感謝申し上げたいと思います。平成25年度には大赤字を記録して、ご心配をおかけした当協会の財政も、昨年度はどうにか黒字で終えることができました。もっともこれには、ある篤志の方から多額のご寄付をいただいたという幸運があってのことであり、協会の財政構造そのものは引き続き厳しい状況であることに変わりがありません。
 その大きな理由は、盲ろう者に対する理解の輪がなかなか大きくならないことです。さらにその原因をたどってみると、視覚障がいや聴覚障がいなど、障がいが単一の人に比してその人口が圧倒的に少ないことと、盲ろう者自身がその存在を世の中に伝えることが難しいことにあると考えられます。ヘレン・ケラーの知名度がとても高いだけに、彼女以外にも盲ろう者の存在が知られることの少なさにしばしば驚かされます。当協会が発足してから四半世紀が経とうとしています。この間、協会は盲ろう者の存在を一生懸命世に訴えてきましたが、日本にも大勢の盲ろう者が居ることを知っている国民はまだまだ限られています。盲ろう者に関する広報活動は、それ自体が協会の大きな役割の一つでもありますが、同時に協会の財政基盤を確立する上でも不可欠です。
 とはいっても、一般の人に直接、盲ろう者に接し、その実情を知っていただく機会は極めて限られます。そうしたことを考えると、盲ろう者を取り上げた映像のもつ意味は大きいといえます。最近も、次の二つが印象に残りました。
 ひとつは、さる5月にNHKスペシャルで放映されたドキュメンタリー番組「見えず聞こえずとも 夫婦二人の里山暮らし」です。京都府にお住いの梅木さんご夫妻の日常生活をテーマにしたものですが、盲ろうの奥様、梅モモさんの明るい笑顔と、里山での農業を糧にしながら、その奥様とともに自然体で日を送られるご主人の淡々としたお姿に感動された方が多いと思います。私は梅木さんにはお目にかかったことがありませんが、当協会の理事や東京盲ろう者友の会の理事長を務め、2月に亡くなられた山岸康子さんとご主人の誠さんご夫妻のありし日の様子と二重写しになりました。
 もう一つは、6月に上映されたフランス映画「奇跡のひと」です。19世紀末にロワール地方の農家で、教育を受ける機会もなく育った14歳の盲ろうの少女マリーが、修道女マルグリットの献身的な努力によって触手話を習得し、マルグリットの天国への旅立ちを見届けるまでのごく短い間の物語です。「彼女はことばを待っている」というマルグリットの台詞が象徴するように、先天的な盲ろう児が言葉を獲得し、コミュニケーションの能力を身に付けることの困難さとそれらが得られた時の喜び、世界の広がりがとても精緻に描かれていたと思います。良く知られているようにヘレン・ケラーの場合のキーワードはウォーター、水でしたが、マリーの最初の「ことば」はナイフ、彼女が肌身離さず持っている折り畳み式のナイフでした。東京での試写会には秋篠宮妃と佳子内親王もお越しになり、福島理事の説明に耳を傾けてくださったそうです。
 マリーはその後も学習を重ね、修道女として36年の生涯をその修道院で閉じたということでしたが、それから100年以上経った現在、フランスでは、盲ろう児の教育をどうしているのだろう、盲ろう者の通訳・介助体制は整っているのだろうかと、ついつい気になってしまいます。4年おきに世界大会が開かれていることからも分かるように、盲ろう者は世界中で暮らしています。当協会でも近年、韓国、ネパール、ウズベキスタン等、アジアの国々に対しては、福島理事らが赴き、盲ろう者支援体制の整備の手助けをしていますが、その一方で、ヨーロッパの国々の盲ろう者のための施策についての知見はあまり集積されていません。盲ろう者のためのナショナルセンターを検討する上でも、改めて先進諸国の盲ろう者支援の現状を把握する必要があるのではないかと考えさせられたりもしました。
 それはさておき、これらの映像は多くの人に盲ろう者の存在とその厳しい日常を知ってもらう上で大きな力になったと思います。私たちはこれからも、様々な機会をとらえ、また、いろいろな方法で、盲ろう者のPRを続けていかなければなりません。

 当協会は今年度、門川紳一郎評議員、真砂靖元財務事務次官のほかに、畔柳信雄三菱東京UFJ銀行特別顧問、清野智JR東日本会長、隅修三東京海上日動火災保険会長の3氏に新しく理事に就任していただきました。3氏が社長を務められたそれぞれの会社には、以前から当協会に多大なご支援をいただいていますが、それだけではなく、これらの理事の皆様は、賛助会員等として個人的にも当協会の応援を続けてきてくださいました。
 日本を代表する企業の経営に当たってこられた方々ですから、今後、協会の運営について様々なアドバイスをいただけることと思いますが、同時に、財界その他各方面での発信力をお持ちの方々でもありますので、より多くの企業や国民に盲ろう者の存在と当協会の活動を知ってもらう上で大きな力になっていただけるものと期待しています。これら新しい理事の方々のご助力も得ながら、当協会はいよいよ、次のステージの大事業、ナショナルセンターの設置に向けての第一歩を踏み出そうとしています。皆様にも、引き続き力強いご支援を賜りますよう、心からお願い申し上げます。

(協会だより第26号より抜粋)