理事長ご挨拶      

2013年8月

 例年にも増して暑さの厳しい夏ですが、皆様にはお変わりなくお過ごしでしょうか。思い起こすと昨年の今頃、当協会は、事務局長不在という困難な状況に直面していました。松山市での盲ろう者の全国大会は、そうした中での2年ぶりの開催でしたが、中・四国ブロック会議のメンバーの方々や地元のボランティアの皆様のご尽力によって盛況裡に終えることができました。その後は、10月に山下新事務局長をお迎えして事務局の体制も整い、一段と多様化した事業のすべてを滞りなく進めることができました。いうまでもなく、盲ろう者の通訳・介助に当たってくださった方々や賛助会費・ご寄付等を通じて協会の財政を支えてくださった皆様のご支援があったればこそであり、紙面を借りて改めて厚く御礼申し上げます。

 協会は昨年度、厚生労働省の委託を受けて、盲ろう者を対象とする滞在型の自立訓練事業を実施しました。約1ヶ月間、盲ろう者に都内のウイークリー・マンションに単身で寝泊まりしてもらい、日中は、東京都盲ろう者支援センターなどで自立に必要な生活等の訓練を受けるというもので、実務は全面的に東京盲ろう者友の会が担ってくれました。当面は、モデル事業という位置づけですが、将来の盲ろう者のためのナショナルセンター開設に向けた第一歩として、大きな意味を持つ事業であると考えています。ちなみに、現在では、「地域生活支援事業」として法定されるまでになった後述の盲ろう者への通訳・介助者派遣事業も、当初は、協会が現在の独立行政法人福祉医療機構から受託して、同様のモデル事業として実施していたものです。
 ご承知のように昨年、障害者自立支援法が改正され、いわゆる障害者総合支援法として本年4月から施行されています。障害者総合支援法は、それまでの障害者の「自立」に代えて、「基本的人権を享有する個人としての尊厳」を明記し、障害者一人ひとりに社会参加の機会や生活選択の機会が十分に与えられることを基本理念として掲げています。この基本理念の実現のためには、障害の程度に応じて必要十分な公的支援が行われる必要があることはいうまでもありませんが、これに劣らず、障害者自身が、強い意思を持って、その有する能力を十分に開発し、これを最大限に活用する努力を行うことが重要です。同時に、こうした障がい者の努力を適切に支援する体制を整えなければなりません。盲ろう者は、障害の程度や態様が千差万別、非常に個性に富んでいることが大きな特徴です。上記のモデル事業には、初年度、4名の盲ろう者が参加されました。こうした事業を通じて、一人ひとりの盲ろう者が、それぞれの障がいの個性に応じて、コミュニケーション能力など、社会参加・共生を果たす上で必要な力をできるだけ効率的に身につけることができるように、訓練手法についてのノウハウを蓄積し、これを全国各地に展開していくことが、協会の大きな使命であると考えています。
 幸いにして身近には福島智さんのように、立派に社会参加を果たしている盲ろう者が居られます。盲ろう者全員の本質的な意味での自立と社会参加の実現、これが協会の究極の目標であり、その達成に向けて、歩みを続けてまいります。

 障害者総合支援法では、都道府県が行う地域生活支援事業の一つとして、新たに「特に専門性の高い意思疎通支援を行う者を養成し、又は派遣する事業」が定められ、さらにこの法律の施行規則(厚生労働省令)においては、触手話と指点字通訳者の養成と派遣は、都道府県の必須の地域支援事業に位置づけられました。20年前には盲ろう者の存在すらほとんど知られることなく、指点字なども福島智さんの占有に近かったことを思うと、指点字の普及、それにも増して、盲ろう者が人として生きるためには通訳・介助者の手が欠かせないことが広く知られるようになったことに隔世の感を禁じ得ません。
 今後とも、この都道府県の盲ろう者通訳の養成・派遣事業の質と量を確保することが重要ですが、それ以前に、未だ各地の友の会の支援の手が届かず、尊厳をもった生を送ることのできていない盲ろう者が少なからずおられることに胸が痛みます。昨年度、上記のモデル事業と同様に厚生労働省からの受託事業として協会が実施した盲ろう者の実態調査では、各市町村から視覚と聴覚とに重複して障害が把握されている1万3千人の方々に調査票を送付したにもかかわらず、協会に回答が寄せられたのは3千通弱です。プライバシー保護の観点から市町村は調査票の送付先を開示しませんので、協会や友の会では、残る1万人の方々の現況を知るすべがありませんが、過日もテレビの報道番組で、お父さんとお兄さんが亡くなられた後、何年もの間、一軒家で一人暮らしを続けておられた東京在住の盲ろう者の様子が報じられていました。こうしたいわば埋もれた盲ろう者の掘り起しは、私たちの大きな責務であり、そのためには家族など、盲ろう者の周囲に居る人たちに協会や友の会の存在を認知してもらうことが不可欠です。こうした観点から、協会は引き続き広報活動にも注力してまいりますので、皆様方の変わらぬご支援をお願い申し上げます。

(協会だより第24号より抜粋)